今回も「Agent Based Modeling」についてご説明します。
ABM を構築する場合、「相互作用の構造」「エージェントの意思決定ルール」「適応過程」という3 つの要素をどのように設定するかで、その結果が大きく左右されます。
今回は、この 3 つの要素について解説します。
(A)相互作用の構造
ABM はエージェント間の相互作用から、どのような社会状態が帰結するのかを探求します。
したがって、エージェントが行為を選択する際にどのエージェントを参照するのかというこ
とは結果を左右する重要な要素となります。エージェントの相互作用の対象を決める方法は大きく分けて、次の 2 つがあります。
1) すべてのエージェントを対象とするケース
総あたり的にすべてのエージェントを相手にしたり、無作為な形で相手となるエージェントを決定したりします。
2) ある特定のエージェントだけを対象とするケース
この方法は非常にバリエーションに富んでおり、空間構造やネットワーク構造を導入し相手となるエージェントに制約を課す場合もあれば、特性の類似性をもとに相手となるエージェントを決める場合もあり、シミュレーションの目的によって様々です。
(B)エージェントの意思決定ルール
ABM では、エージェントが自身の意思決定ルールに従って行為を選択します。したがって、
エージェントがどのような意思決定ルールに基づいて行為を選択するのかによって、結果は
大きく変化します。原理的には、エージェントの意思決定ルールはどのようなものでもよいのですが、通常は比較的単純な意思決定ルールを用います。また、多くの場合、エージェントによって、その意思決定ルールは異なります。エージェントの意思決定ルールにどの程度多様性をもたせるのか、ということもシミュレーション結果を左右するポイントになります。
(C)適応過程
ABM では、多くの場合、エージェントが自身の行為の帰結や周囲のエージェントの影響に
より、その意思決定ルールを変更します。エージェントの意思決定ルールを変更する方法は大きく分けて、次の 3 つがあります。
1) 自己の経験に基づく適応
自身の行為選択の結果にのみに基づいて意思決定ルールを変更するもので、主に学習過程を取り入れたものなどが該当します。
2) 観察に基づく適応
相互作用の相手となるエージェントの特性を観察して、自身の意思決定ルールを変更するもので、自身と同じ特性をもつ相手や獲得利得が自身よりも高い相手の意思決定ルールを模倣する場合などが該当します。
3) 集団に基づく適応
集団の下位 X%が上位 X%の意思決定ルールを採用するもので、意思決定ルールを変更するエージェントからみた場合、観察にもとづく適応では模倣の対象は相互作用の相手に限定されるのに対し、集団にもとづく適応では相互作用の相手に限定されません。
集団にもとづく適応では、直接的に相互作用の対象となっていなくとも、利得の上位に入ってさえいれば、下位のエージェントはその意思決定ルールを採用します。
Agent Based Modelingの概念について、ご理解頂けましたでしょうか。
次回は「Agent Based Modelingの応用例」についてご説明します。