CMエンジニアリング株式会社(以下、当社)は、東京都品川区に本社を構え、2010年に設立された。半導体の設計、IoTの製品開発、およびサービス事業を展開している。
当社は、「IoTと地域のかけ橋となり、真の問題解決へ」という理念を掲げており、自社開発の「IoT向けのワイヤレスセンサネットワークシステムのプラットフォームTele-Sentient」を活用して、地域の課題を解決する新しい事業を探していた。こうした中、Seaside Consulting社が展開しているエビ陸上養殖に注目した。同社の事業は、耕作放棄地を有効活用してエビ陸上養殖を実現しようというものであった。
市場調査をしてみると、現在、全国各地において、担い手不足などによる耕作放棄地が増加していることが分かった。さらに漁業者の高齢化と相まって漁獲量の減少が続いており、陸上養殖市場は拡大する市場であることも分かってきた。(図1)
当社は、以前、農業のDX化に取り組んでいた。また、ベトナムの海外子会社で陸上養殖業者にモニタリング装置を提供した経験がある。これらのノウハウや資産を活かせる可能性があると考え、耕作放棄地などの未活用資産を活用した陸上養殖という新しいビジネスの創出に関わっていく判断をし、2022年10月から千葉県鋸南町で実証実験を行っている。
この判断の背景には、Seaside Consulting社の地方の課題解決を促進し、環境破壊を防止したいという考え方があり、その考え方をベースとした事業展開に共感したということもある。
『IoTによる陸上養殖』
関連URL:https://telesentient-iot.com/land-based-aquaculture/
『ワイヤレスIoTセンシングプラットフォームTele-Sentient』
関連URL:https://telesentient-iot.com/
陸上養殖のシステムについては図2に示す通りである。耕作放棄地に構築する陸上養殖池は、地方自治体から農地転用の許可を受けてビニールハウス内に穴を掘り、シートを敷いて水を入れている。(図3左側)
飼育槽内にDO注1センサー、水温センサー、pHセンサーを取り付け、陸上養殖システムでデータを取集し、解析することで水質管理、給餌管理を行っている。さらに、陸上養殖の課題である水質管理や給餌管理などの作業の効率化や属人化からの脱却、コストの6割を占める餌代の最適化(抑制)や品質と歩留り向上を可能とするため、取集したデータと作業者の行動履歴を連携させるデジタルツイン技術の開発を進めている。
注1:溶存酸素(Dissolved Oxygen、以下DO と略す)とは、水中に溶解している酸素のことで、その濃度は単位容積当たりの酸素量(mg/L)で表す。
開発したシステムは、新規に陸上養殖を始める方に、陸上養殖サービスとして提供する計画だ。(図4)
土地、ビニールハウスなどは養殖事業者が用意することを前提に、エビ陸上養殖10槽(10㎥×10式)の設備規模における費用モデル例は以下の通り。
・陸上養殖設備(養殖池、ろ過装置など) 1,600万円
・陸上養殖システム(センサー、管理システムなど一式) 230万円
・運用コスト(センサー運用、稚魚、餌、光熱費など) 400万円/年
※費用は2023年10月時点での参考価格で仕入れ状況で変動する可能性がある
このほかに、システムのみを提供するモデルもある。
Seaside Consulting社が養殖したエビ(バナメイエビ)は「Bianca(ビアンカ)」というブランドで販売しているが、美味しいと好評である。このため、高い付加価値を実現できている。
陸上養殖では、次のデータを取り扱っている。
養殖池の水質管理データ
・水温データ
・pH値データ
・DO(溶存酸素)値データ
作業者の行動履歴データ(現在は、Excelを使用して手入力で収集)
水質検査を行う際に使用するpH値やDO値を測定するセンサーは、さまざまなものが提供されている。これらの違いを運用中に把握し、運用の中で発生した課題の解決を継続的に行うことで事業の成功につなげることができた。
また、水質管理を行う上では、作業員が実施した操作を把握し、水質変化と紐づけするシステムにしていくことも重要である。このため、養殖池の水質管理の運用ノウハウを継続して蓄積している。
また、養殖池の水温は気温などの外部要因に影響されやすい。これに対処するため、ビニールハウスの電動窓制御などにより水温を管理することも考えている。
養殖池の水質データの測定値をGUI(グラフィカルユーザインタフェース)でモニタに表示しているが、表示のレイアウトを見やすいように改良する、パソコンでのみ表示していたものをスマートフォンでも表示できるようにするなど、ユーザの操作性向上につながる改善を行っている。IoTを使ったことがない人にも使ってもらえるように、フレンドリーなインタフェース提供に力を入れた。
以前より陸上養殖システムの開発をベトナムで行っており、現地の陸上養殖事業者に提供している。この際に、陸上養殖のノウハウ蓄積できていたことが本事業の大きな成功要因である。また、IoTシステムのコア部分がプラットフォーム化されており(Tele-Sentient)、それを活用することで陸上養殖システムを短期間で効率的に開発することができた。さらには、自社開発の無線モジュールを製造・販売していたので、現場で発生するIoTシステムのトラブル対応や低消費電力化などのノウハウが蓄積されており、これも陸上養殖システムの開発で活用することができた
エビ陸上養殖のノウハウを理解するためにSeaside Consulting社から関連する情報を提供してもらうことでさらに知見を深めることができた
データ分析によって養殖池における異常の発生を事前に予測し、ユーザに通知するシステムの実装を第一目標として挑戦したい。また、現在はバナメイエビの養殖向けのシステム開発を行っているが、エビ以外のさまざまな魚種にも挑戦していきたい。
現在の農地法では、農地を農業以外の業務に転用することが難しい。陸上養殖のみならず、他業種への有効活用に向けて、こうした農地利用の規制緩和をお願いしたい。また、新しく事業を展開するために必要な初期投資を軽減するため、国や自治体から補助金を充実してもらいたい。日本の水産業を盛り上げる意味でも、このような補助制度の充実を期待したい。
また、技術面では、センサーの価格がまだ高い。技術革新が進み、品質の良い安価なセンサーが市場に出てくることを期待している。
地方自治体とのコラボレーションを進めていきたい。この事業をプッシュしてもらえるような地方自治体や公共団体と連携する仕組みができればありがたい。
また、アクアポニックス注2のように、養殖で使用した水を農業で活用するといったことも将来的には視野に入れていきたい。
注2:アクアポニックスとは、水産養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」からなる造語で、魚と植物を同じシステムで育てる新しい農業のこと
陸上養殖事業では販路を確保することが重要と考えている。今後、水産物の加工業者、水産物の卸問屋など販路を持っている業者に働きかけ、販路拡大を実現していきたい。
CMエンジニアリング株式会社様からのメッセージをお伝えします。
「当社は自社開発の「IoT向けのワイヤレスセンサネットワークシステムのプラットフォーム(Tele-Sentient)」を提供することで、DX化による地域課題解決や地方創生に取り組んでいきたいと考えております。この活動にお力添え頂ければと考えております。」